パ犬

さっぽろ ホラー映画とパンとTinder(卒)

好きな人と恋人になった

 

ひと月前私から彼に告白した。

彼にとっての懸念点はパートナーを作る事で今後の人生にどんな影響があるか、責任を持てるのか。私が重きを置くのは本当の愛とは何かという事だった、会議か?というテンションで話した結果その場で結論が出なくて、ゆっくり考えたくて、お互いに感情を整理してまた話し合おうと約束した後の話です。

 

 


12/12

 

彼と日帰りで温泉に行った、よく晴れていて気持ちのいい日だった。

楽しみすぎて5時に1回起きてまた寝た、8時に起きて用意して、どうせ温泉に入って全部落とすのに念入りに化粧をした。

それでも待ち合わせ時間にはまだ早くって1本早い電車に乗れた。
早くついてしまうので驚かせようと思って彼の最寄り駅で降りた、トイレでにやにやしながら前髪を直して、どこで待ち伏せしようか考えながらトイレを出ると丁度階段を上がってきた彼が目を真ん丸にしていた。
「驚かせようと思ったのに」と残念そうに言うと「いやびっくりしたよ、今連絡しようと思ってたから」と笑った。

バスに乗ってすぐお菓子買うの忘れた〜と私が言うと「実は焼いてきたんだ」と小さな鞄からフィナンシェとクッキーを覗かせた、まさか作ってくるとは思わなかったので笑った。お茶買えばよかったかなと呟くと手に持っていたあたたかいほうじ茶を手渡された。私の為に買ってくれたみたいで、人からこんなに優しくされたことが無いから驚いて断ってしまった。

 

温泉に着いて、待ち合わせ時間を決めてそれぞれ入浴した。

軽く化粧するよねと思いながら早めに上がったらすごく早く準備まで終わってしまって、浴衣を10回くらい着直した。背が低いのでSでも裾を引きずってしまう。
ソファに座って自販機で買ったいちごオレを飲んだ、温泉は空いていて日帰りでも旅行気分を味わえてほっこりした。

男湯から人が出てくるたびにチラチラ見てしまう、少しして彼が出てきて、なぜか荷物を全部持って私服を着ていた。ロッカーに置いてきていいんだよと言うと彼はあっ確かに!と言って笑っていた。浴衣着てないじゃんと笑うとLサイズを渡されたため大きくて着れなかったようで、「着た方がいい?」と聞くので「絶対に着てほしい」と食い気味に言うとわかったと言って微笑んだ。
受付で浴衣を交換してもらって彼を待つ、数分して出てきた彼は暖色の浴衣がよく似合う、いつもと雰囲気が違って見えて少しドキドキした。


帰りのバスで彼はうとうとしていた、寝てるかな~と彼を見ると彼もこっちを見ていて目が合った。
思ったより早く帰ってこられたのでワイングラスとお猪口を選びに行った、背の低いワイングラスが買えたのでクリスマスはこれでワインを飲む。買い物して家についてハンバーグを作った、土鍋で玄米を炊いたらしょっぱくなった。
彼がパソコンを譲ってくれるというので見せてもらって一緒に初期設定をした、オフィスまで入れてくれて丁寧に使い方を教えてくれた、お返しを少し用意したけど全然足りないから何を返そうか迷っている。


帰り彼が駅まで送ってくれた。ちょうど乗る電車が行ってしまって駅の中でしばらく待った、寒いからここでいいよと言うと「待つ」とひとこと言った。
そろそろ電車が来る時間になり、逆方向へ向かう電車から降りた人たちで改札がガヤガヤしてきた、改札前で立ち止まってかしこまった声で「今日も楽しかったです」と言ったけど、今日はこのまま帰るつもりはなかった。

「やっぱり恋愛対象として〇○くんの事好きです」喧噪のお陰でスラスラ言葉が出た

 

言ったあと彼も何か言ったが体が勝手に動いて改札を抜けた、多分「もう時間ない?」と焦ったように聞かれた。手を振って電車に乗った、逃げてしまった。次会うのは2週間後だったので失敗したなと思った。この気分で2週間過ごすのはしんどい、死刑宣告を待つ気分だった。

電車に乗って彼にラインした

 

「私テンパったらどっか行く癖あるみたいです」
「冷静な自己分析」
「次はクリスマスだね、おやすみ」
「明日仕事帰りごはん食べながら話せますか?」
「はい」

 

私はこの時点で怖すぎてかなり怯えていた。怯えていても何も始まらないのはわかっているけど、家についてお風呂に入っても眠れなくて、やっと眠りについたのは深夜の3時だった。

 

 

 

 

12/13

 

仕事中気が気じゃなかった。何も手につかなくてずっと上の空でミスを連発したけど、仕事が終わると逆に冷静になっていて、どうにでもなれと言う気持ちで一周回ってご機嫌だった。
彼とこれからも友人だとしたら楽しくやっていけるだろう、恋人になったら手をつないだりキスをしたりするんだろうなと考えて頭が混乱する。もうキスの仕方すら忘れている、まだ結果も分からないのに頭がグルグルした。

 

待ち合わせ場所に向かうと遠くにいる彼を見つけた。

彼もすぐ私に気付いたようで目が合う、つい目を伏せて入り口にあるアルコール消毒の容器を見た、時間を稼ぐようにゆっくり手を消毒してのろのろ歩いていると彼から向かってきて「お疲れ様です」と言った。

予約を取っているというので時間まで少し歩いてたわいもない話をした、変な距離感で顔がこわばるのを感じた、シュレディンガーの猫状態でどんな顔をしていいかわからなかった。途中人気のない道を歩いていて、こらえるのが限界で笑ってしまった、緊張感が苦手でつい面白くなってしまう。「この緊張感やだなー」と言うと彼は笑った。

お店へ入ってしゃぶしゃぶを食べた。

なんとなく食べ終わって会話に間が出てきた頃彼が話始めたので鍋の火を止めてもらった、もう一度彼が口を開いて改まった顔をするので、急に緊張してきて「待って、私から話させて」と言うと黙って聞いてくれた。

 

「1か月前に私が話してからよく考えた結果が昨日のあれで、もし○○くんとこれからも友達でいる場合もっともっと好きになってしまうのが分かったからです。関係性が定まらないまま好きになっていくのは辛いので、もっと好きになる前に終わるなら終わらせたかった」とか、こんな事を話したと思う。利己的だね。

そう言った後私が黙ったので、もう僕のターンですか?とデュエリストみたいなことを言われた。はい、どうぞと私が笑うと彼が話はじめた。

 

「〇〇さんと次はいつ会えるのかなとか、離れていても今何してるかなとか考えることがよくあって、友達に対してはそんなこと思わないから〇〇さんのこと異性として好きなんだと思います。良かったら僕とお付き合いしてください」と言われた。

途中から耳が遠くなってあまり覚えていない、私は口元が緩むのを隠し切れないまま「はい」と答えた。
帰り道駅まで送ってくれて、歩いている彼の手を握って「手を繋いでもいいですか」と聞くと「もう繋いでる」と笑った。改札の前でハグして定期を鳴らした、何度も振り返って手を振った。
 

 

 

12/14

 

昨日からずっとぼーっとしている、母と父に報告したら喜んでくれて嬉しかった。

彼と恋人になった実感がわかなくて心が無になっている、なんだか心が定まらないのでワインを開けて母と飲んだ、ほぼ一本をひとりで開けた。お酒を飲むとツラツラ言葉が出てきて母は黙って聞いてくれて気が楽になった。

彼が私を選んだ理由が分からなくて不安だった。

オタクに報告すると祝福してくれた、なんと彼にも恋人が出来ていて本当にうれしかった。彼女は168センチのスタイル抜群ハーフらしい!どっちも高身長だと絵になるね、早く2人が並んでいるところが見たい。嬉しいな。

 

オタクと話しているうちに私はなんだか不安になってきて、「急に会いたいって言われたら迷惑かな?」と聞くと「好きな人に会えるのに迷惑だと思うわけないでしょ」と言ってくれて泣いた。

彼に「急だけど明日会いに行ってもいいですか?」と連絡すると「もちろん!わざわざ来てくれるの?」とすぐ返信が来て少し楽になった。

 

 


12/15

 

朝起きられなくて昼から出勤することにした。起きられなかったというより起きる気がなかった、シャワーを浴びて母とゆっくり朝食をとって犬を撫でてから出勤した。

会社につくと「おなか大丈夫?」と心配され少し申し訳ない気分になった、ありがとうございますと笑って仕事をした、今日も全然集中できなかった。

退勤後すぐ地下鉄に乗って彼に連絡した。

 

「25分に着きます」
「スーパーで買い物します」
「私が買っていくよ」
「じゃぁスーパーで待ち合わせよう」
「さむいよ」
「さむいね」

 

寒いからお家で待ってていいんだよ、という意味の「さむいよ」を言葉通り私が寒がっているという意味で受け取った彼は、寒くても駅まで迎えに来てくれる。

 

スーパーについて彼を探した、魚、お肉、お菓子、野菜コーナーまでスーパーを一周探しても彼を見つけられなくてラインしたら送った瞬間既読が付いた。「レジに並びました」と言うので待ち列を見渡すと彼が手を振った。

なんだか急に緊張してきて「お疲れ様です」と言うと「お疲れ様です」と言った、カゴにはアボカドやレモン、冷凍のむきエビが入っていてお腹が鳴った。私がお昼にアボカドが食べたいと言ったからアボカドのパスタを作ってくれるらしい。私は緊張していたので「お腹すいた」と言った。

家に帰る途中変な距離感が生まれた、たぶん緊張しているのは私だけで、妙に意識しているからうまく言葉が出てこなかった。

 

彼の家について広い机の上を見ると仕事用の資料やヘッドセットが広げてあってなんだかきゅんとした、好きな人が真面目に働いているのはかっこいい。ノートを見ると英語がたくさん書いてあって全く意味は分からなかったが彼は頭がいいんだなと改めて思った。

彼がキッチンで作業しているので「アボカド切ります」と言うと「いいです僕が切ります」と言うので「何したらいいですか」と聞くと「座っているのがあなたの仕事です」と言われたので、食器を拭いて彼がお湯を沸かすのを見ていた。
パスタはとても美味しくて一瞬で無くなった、パスタを食べながら来月泊まる予定の温泉宿を見てわーわー言った。

 

お皿を洗って暇になったので勝手にテレビをつける、ネットフリックスを開いてアニメの最新話を見ていると彼が隣に座ったので手を握った、肩にもたれて「1週間はうざいくらいくっつくけど…我慢してください」と小さい声で茶化すと「1週間したらやめちゃうの?」と頭を撫でられた、私が黙って俯くと「かわいいからずっとこのままがいいな」と言った。手が小さいね、手首が細いね、もっと太った方がいいよ、壊れちゃいそうだねと言って愛おしそうに私の肌を撫でた。

 

手を握ったり握られたりしているうちに彼が横になったので、抱き着く形で彼の横に並んだ、顔が近くて目が泳いだので俯いて距離を取った。体勢を変えるときに見下ろされてキスされると思ったけど、何も起こらなかったので「キスされるかと思った」と笑って言うとなんて答えていいか分からないという顔で微笑んだ。

「わたし、付き合う前からずっと〇〇くんとキスしたいと思ってたけど、今ははじめてのキスって一度しかないからもったいないなと思う」と言うと彼は笑って「じゃぁキスできないね…」と言った。私は「一度すると100回しちゃう」とふざけて言った。今考えるとゴキブリみたいな言い方だなと思う。

ふと目が合って、彼が私の顎を撫でてうなじに手を添えた、キスされると思ったらそのまま頭を撫でられるというのを幾度か繰り返されて、彼の唇が目に入って愛しかった。私が「いじわる」と言うと彼は笑って「一度目はもったいないもんね?」と意地悪そうな顔をしていて、今すぐに触れたくてちいさい声で「したい」と言うと彼がゆっくり起き上がって私の唇をはむようにキスをした。

もっと近付きたくて私からもキスをする、彼がキスを返すので私からまたキスをした

唇を近付けて触れるか触れないかの所で静止して、楽しくなって小さく笑っていると彼に後頭部を持たれて深くキスされた。彼の唇は柔らかくて潤っていた、何度もキスするうちにもっとしっとりして心地よかった。彼は「好きだよ」「かわいい」とうわ言のように何度も言った。

 

実をいうと彼に性欲がないのではないかと懸念していて、私は性欲が強い方なので心配していたけど、キスだけで彼のものが反応していて安心した。今までは好きな人と性行為出来ない事がとんでもなく空しかったけど、彼となら身体でも言葉でも愛情表現してくれるから寂しくならないと思う。

 

終電が近付いて、「そろそろ用意するね」と座り直すと「帰っちゃうの」と子供みたいな声を出して私を抱きしめた。かわいいね、と彼の目を見て言うと目を伏せて恥ずかしそうに必ず2秒黙る、これからもたくさんかわいいねと言いたい。

外に出ると気温が低いはずなのにあまり寒くなかった、「体温上がってるからあんまり寒くない」と彼が笑っていて身体がぽかぽかした。

繋いだ手が暖かくて、終電が来なければいいのにと思った。改札の前でおやすみとハグをして「キスしなくていいんですか」と聞いた、彼は少し動揺した様子で「でもリップが落ちちゃう…」と言いながら少し屈んでキスをした。

改札を抜けて振り向くと彼がいる、彼はいつも私が見えなくなるまで見送ってくれるから嬉しくて2回振り返ってしまう。

 

電車に乗って窓の外を見ていると「いつも遅くに返してごめんね、帰りが心配な気持ちと少しでも一緒にいたい気持ちが葛藤して、今のところ後者が圧勝しています」と申し訳なさそうなスタンプが添えられたメッセージが来た、私が一緒にいたいんだよと送ると土下座の絵文字が返ってきて、この人はどこまで優しいんだろうと思った。

 

彼の愛おしそうな視線を受けるのは死ぬまで私ひとりだったらいいな、と思いながら電車に揺られた。
 こんなに素敵な人が私の恋人でいいんだろうか、彼の事をもっと知りたいと思った。